プロテインエンジニアリングで

バイオイメージングや免疫測定を革新させるツールを創出

どんなものでもみてみたい! なんでもはかってみたい! というのが目標です。


蛍光タンパク質を利用した可視化センサー

  蛍光タンパク質はクラゲやサンゴなどに由来するタンパク質で、自己触媒的に発色団を形成するため、外部から色素を加えることなしに、光ることができます。我々はこの光る機能を巧みに利用して蛍光タンパク質センサーを開発しています。そして、蛍光タンパク質センサーを光学顕微鏡で観察すれば、細胞が生きた状態のままで、遺伝子、タンパク質、イオン、代謝産物などの分子の動き、活動/休止、増減を可視化することができます。言い換えれば、蛍光タンパク質センサーで、体や細胞の中で今何が起こっているのかを、色の変化や光の強弱として見ることができます。さらに、この技術を発展させれば、正常な細胞と病気の細胞を比較することや、細胞内の状態を変化させる物質を発見することができ、新しい診断法や薬剤の発見につなげていくことができます。

センサーの開発戦略と分子デザイン

 蛍光タンパク質はβバレル構造と呼ばれる樽のような構造をしています。この樽の構造の真ん中に蛍光を発する発色団が存在します。この発色団は3つのアミノ酸より形成されており、アミノ酸の組み合わせを変えることで蛍光色を変更できます。2色の蛍光タンパク質を用いるFRET型センサーは、例えば水色と黄色を使った場合、注目分子との結合により水色から黄色へ変化します この色の変化の割合から注目分子の濃度を算出できます。また、単一蛍光タンパク質型は、注目分子との結合により発色団周囲の電荷状態が2分割の前の状態に近くなることで、蛍光強度が回復します 。したがって、蛍光強度強弱で注目分子の濃度変化を検出することができます。FRET型、単一蛍光タンパク質型にはそれぞれ長所、短所があり、目的に応じて作り分けています。

 それぞれのタイプのセンサーを使って蛍光顕微鏡でイメージングした動画を右に示します。HeLa細胞をヒスタミンで刺激したときのカルシウム動態です。FRET型のセンサーは低濃度は青色、高濃度は赤色になるように疑似カラーをつけています。単一蛍光タンパク質型センサーは濃度に応答して輝度変化を起こします。30分を10秒程度に早回ししています。

FRET型センサー

単一蛍光タンパク質型センサー


マルチカラーイメージングを目指した蛍光の拡張

 単一蛍光タンパク質型のセンサーは1色の蛍光強度の強弱で分子濃度変化を検出します。したがって、複数の分子を、異なる蛍光色で検出し、それぞれの分子間の機能相関を同じ細胞内で解析することができます。我々は、さまざまな蛍光色をもつ蛍光タンパク質を用いて、細胞内シグナル分子やエネルギー代謝に関わる分子のマルチカラーセンサーの構築に挑戦しています。構築したセンサーはiPS細胞に導入され、マイオリッジにより販売されています。

 

分子認識ドメインを抗体にすることによるセンサーの多様化

 これまでの蛍光タンパク質センサーは 分子認識ドメインに既知の結合タンパク質を利用しており注目分子の結合タンパク質が未知である場合センサー構築することが困難したそこで様々な抗原に対して認識する多様性をもつ抗体を分子認識ドメインとすることで、あらゆる分子を標的として検出できる「Flashbody」を開発ています

や任意の分子で細胞の機能を操作する技術

 多岐にわたる生理機能を解明するとき、注目分子の動態を可視化するだけは十分ではありません。因果関係を証明するため、その分子の動態を操作する技術が必要で。そこで我々は、オプトジェネティクツールとケモジェネティクツール開発を行っています。

 オプトジェネティクスは光でタンパク質の機能を制御する技術です。光照射により構造変化することが知られているLOVドメインやBLUFドメインに酵素を融合し、酵素の機能を光で操作することを試みています。例えばLOVドメインの隙間のない構造が、光で緩みのある構造となり、基質がアクセスできることで、酵素活性を調節できると考えています。

 ケモジェネティクスは、人工的に設計された受容体とリガンドを用いた細胞の活性制御技術です。我々は、細胞の外側に抗体、細胞の内側にさまざまな酵素を二分割した人工受容体を構築しています。抗原が結合することで酵素活性が回復し、細胞内へシグナルを伝達します。抗原と抗体の結合は特異性が高く、任意の分子を使った細胞の制御には最適です。将来的には細胞操作技術を動物や植物個体にも導入し、行動や成長を自由自在にコントロールしていきたいと考えています。

蛍光免疫センサーQuenchbody(Q-body)の開発

 抗原濃度依存的に蛍光強度が増大するバイオセンサーQ-bodyを開発しています。Q-bodyは蛍光色素を抗体の部位特異的に修飾することで構築します。抗体内に存在するトリプトファン残基による蛍光クエンチを利用するこのバイオセンサーは分析化学など基礎研究における研究ツールとして、さらに広く臨床検査、食品分析、環境調査などの検査試薬としても活躍しており、バイオベンチャーの設立に至っています。最近はコロナウイルスの検出にも成功しており、Q-body応用の加速的発展が期待されています。

カスタマイズ可能な均一系免疫センサーの構築

 変異を導入した酵素に抗体を結合させ、抗原依存的に酵素活性が上昇するOpenGUS免疫測定法を構築しています。まず通常四量体で機能する酵素GUSに変異を導入することで二量体にします。そして、この変異GUSに抗体を結合させ、抗原を添加したときに四量体が形成することを利用して酵素を活性化し、計測します。この免疫測定法は抗体を柔軟に変更できるため、狙った抗原に対して均一系免疫センサーを構築できます。ELISAに代わる技術として、フナコシより販売されています。